【中小企業向け】就業規則ってどう作ればいいの?~リスク回避にとどまらず、従業員のモチベーションアップを目指せる書き方~
皆さんの会社に、就業規則はありますか? ちゃんと従業員に周知されていますか?
就業規則は、従業員を縛るためだけのものではありません。従業員と意識を共有し、モチベーションを上げる役割だって果たせます。
今回は、書き方を守りながら、より積極的に活用できる就業規則作りを、中小企業診断士ライターの視点から提案します。
「モデル就業規則」を見本にスタート
はじめに、このコラムを読んでくださっているのは、中小企業の社長さんや総務関係の方が多いと思うのですが、従業員が10人に満たない場合は、就業規則を作る必要はありません。法律でそう定められています。
ですが、就業規則の性質や役割を考えると、義務ではなくても作っておくほうが企業としては上向きに成長できるように思います。なので今回は、皆さん作る前提でお話をしていきますね。
就業規則って、何のためにあるんでしょうか?
一般的には「従業員との間のトラブルを避けるために、ルールを明記したもの」というイメージではないかと思います。
どちらかというとリスク回避の砦としての文章が並んだもので、いつも読むようなものではない、という感じではないでしょうか。できれば従業員に見せたくない、渡したくない、という社長さんもいらっしゃるという話も聞きます。
勤務時間や休日の規定、退職金や解雇についてなどが固い言葉で並んでいますから、そんな印象にもなりがちです。でも、少なくとも就業規則は、企業と従業員双方のための「ルールブック」です。それをもとに雇用関係が成り立つ以上、企業側も従業員側も中身を良く知り、理解し、活用できるところまでいくのが、理想的ではないかなと思います。
就業規則は、作ることが労働基準法で義務付けられていることもあり、厚生労働省が「モデル就業規則」というものを出しています。最新で令和5年7月版が出ていますので、見てみてください。
大筋はこれに沿って作りながら、細かいところを自社に合わせて変えていくというのが良いかと思いますが、それにしても細かくて量が多いので、専門家(社会保険労務士さん)の手を借りないと、なかなか大変かもしれません。
「服務規律」で、求める人物像を明確に
そんな就業規則の中で、注目していただきたいのが「服務規律」という項目です。
厚労省の「モデル就業規則」を見ていくと、
服務規律及び遵守事項については、就業規則に必ず定めなければならない事項ではありませんが、職場の秩序維持に大きな役割を果たすことから、会社にとって労働者に遵守させたい事項を定めてください
引用元:厚生労働省令和5年7月「モデル就業規則」
と書いてあり、中身には、守らなければならないことや禁止事項が並んでいます。
それらをしっかりと書いていくことで、企業として従業員に「求める人物像」をはっきりと意識させることができます。
例えば、新しい意見を取り入れてどんどん成長していきたいという意識なら「従業員は、業務の中で常に経営者意識をもち、積極的に組織改革につながる提案をする」、伝統を大切に継承していって欲しいという思いなら「明治創業であるという伝統に誇りをもち、企業全体でそれを守っていく意識をもつ」など記すと、良いでしょう。
禁止事項についても、企業がどのようなモラルで事業を行っていくのかが分かります。服装や言葉遣い、髪型などは、均一を良しとする企業もあれば、自由であることを大切にする企業もあるでしょう。こうしたところに各企業の価値観が現れるのです。
固い中にも「らしさ」を盛り込む
就業規則は、やはり「固い」です。そういう性質のものなので、仕方ありません。
しかし、法律を守ったうえでその企業らしさが入っていると、従業員には一気に身近になり、愛社精神にもつながるのではという気がします。
就業規則にある中でも、「らしさ」が出せそうな項目をピックアップしてみます。
PICK UP
- 休暇(企業や従業員に合った「〇〇休暇」を作ってみる)
- 表彰制度(企業の価値観に合う、独自の表彰基準を作ってみる)
- 職業訓練(どんな学びを応援するのか)
- 祝い金、お見舞金(何に対して出すのか)
先日読んだコミックでは、社員が風疹の予防接種を行うためのお金を、社長さんが出すことを決めるというストーリーがありました。
それを大切にする社長である → 社長の価値観が見えてくる → 従業員側が共感できれば、やる気につながる → 離職率の低下や生産性の向上をもたらすかも。
こうしてみると、就業規則は企業の価値観を従業員に示すという、大きな役割を担っているんですよね。ひな形からスタートして、それぞれの項目について「自分たちなら」をしっかり考えて作っていくと、良いものができてくると思いますよ。
2つの「周知」で従業員のモチベーションアップ!
さて、作った就業規則は、従業員に見てもらわなければ意味がありません。これは、就業規則において「作成する」「従業員の意見を聞く」「届け出る」「周知する」という義務のうちの1つでもあり、十分な周知をしていなければ、義務を全うしたことになりません。万が一従業員との間で問題が起こった時にも、就業規則の存在を認めてもらえない恐れがあるので要注意。
「周知」の仕方は、データで従業員に配布する、社内に掲示するなど、いろいろです。義務としてはそれで果たせるのですが、ここではもっと有効に活用する意識での「周知」を考えたいと思います。
長くて読みづらい就業規則は、自分が気になるところだけしか読まないという従業員も多いでしょう。でもそれは、社長が読んでほしいところと違っていたりするものです。なのでここでは、以下の2つを提案します。
知ってほしいこと・魅力的なことをピックアックして伝える!
毎月の社内報や毎週の社長メッセージ、毎日の朝礼など、従業員の皆さんに伝えられる機会がある時に、就業規則の一部をピックアップし、簡単に説明します。「一部」を「簡単に」がポイントです。
社内報など書き物なら400字くらいまで、話をするなら1~2分くらいで。「実はこんな制度があります」「会社としてはこんな想いで用意しました」「こんな風に活用してください」という流れで伝えます。
すると、縛るためのルールではなく、気持ちよく働くためのルールとして従業員に届いていくと思いませんか! 伝え方ひとつで「皆で守っていこう」という前向きな意識が生まれるのです。
あくまで、1テーマで簡潔に伝える方向で。複数を一気に伝えてしまうと、インパクトが薄れますよ。
就業規則をもとにした「やさしいルールブック」を別で作る!
2つ目にやりたいのは、就業規則をもとに、もっと簡単で読みやすい「やさしいルールブック」を別で作ること。就業規則には、ひな形をもとに、記載しないといけないことをきちんと書く。それをもとに、細かくて重要度の低い点は省き、より分かりやすく楽しそうにまとめたルールブックを別で作るのです。
ルールブックには、就業規則に書いたことはもちろん、社員への意識づけや仲間意識醸成のために加えたいことも加えて、読みたくなる・楽しくなる、そんな雰囲気を目指しましょう。
就業規則は全員に手渡すという義務は無いため、新入社員にはルールブックを手渡して、良い空気感で会社のルールを捉えてもらい、就業規則を見たい時にはどうするかを案内する、というやり方もありかなと思います。
以上、2つの周知提案はどちらも、読んだ後に「就業規則って、しっかり読む価値のあるものかも!」と思わせられることを狙っています。就業規則自体はどこで読めるのかの案内も一緒に書いておけば、その流れで就業規則を読む人も増えると思いますよ。
就業規則をより柔軟に、採用活動時の戦力にも
分かりやすく、価値ある存在としての周知が実り、従業員の皆さんの関心が高まってきたら、次は「規則を一緒に作ってみる」というステージに挑戦してみるのも良いかもしれません。
何も全てを、というわけではなく「どんな休暇があったら、みんな嬉しいと思う?」「どういう分野の勉強ができたら、仕事の質が上がると思う?」、そんな相談を持ち掛けてみてはどうでしょう。
従業員の側に「自分たちの働く環境をより良くするために就業規則があるんだ」という認識ができ、それを自分たちも一緒に作ったとなれば、就業規則はもう、彼らを縛るためのつまらない文章の羅列ではなくなります。拠りどころにし、より良い企業として成長していくためのバイブルのような存在になっていくでしょう。
また、先述したルールブックを作ったら、採用活動にも積極的に使っていくと良いでしょう。
さすがに就業規則そのものは、採用する前の人に見せるわけにはいかないですが、ルールブックの一部を抜粋して紹介するなどはできそう。会社の価値観を伝えることができます。
特に就職活動をしている人にとっては、まさしく就業規則に書かれているようなルールは気になるけれど積極的には聞きづらいところ。それを一部だけでも見られれば喜ばれます。
会社側も、見せてあげるというよりは、自社の価値を理解して、それに共感する人に来てもらいやすくなり、ミスマッチも減るのでは。お互いにとってプラスになりますし、オープンな企業だという良い印象をもたれるはずです。
【PR】社内への「PR」も大切。コトバタントウで支えます
今回は、就業規則を、従業員のモチベーションアップに活用、という視点から書いてきましたが、いかがでしたか。
言葉工房トムでは、中小企業のPR支援を柱としていますが、PRというのは何も外に向けての宣伝活動だけではありません。
社内(従業員)に向けてのPR-いかに社長の想いや事業の魅力をきちんと伝え、共感を得て、やる気を出して気持ちよく働いてもらうか。そうしたことにも「言葉のチカラ」は大切になってきます。
今回のような「就業規則の中からのピックアップ」や「ルールブック作り」、はたまた「自社に合う就業規則を定めて、それを周囲にうまく伝えること」など、社内のPR支援もしっかりとしていきますよ。
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今回の記事作成にあたって、社会保険労務士の高原祥子さん(高原社会保険労務士事務所/三重県津市)にご協力いただきました。ありがとうございました。
高原さんより、厚生労働省が出している「就業規則作成支援ツール」もご紹介いただきました。
こうしたツールを活用しつつ、分からないことや心配なことは、就業規則のプロである社労士さんに相談してみるのをお勧めします。
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